「Developers X Summit 2024」参加レポート

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こんにちは、青木です。 今回、2024/11/14に浅草橋にて行われたDevelopers X Summit 2024に参加してきましたので、イベントレポートとしてまとめてみたいと思います。

…と書いていたんですが、年末から年始にかけてバタバタしており、ほぼ書きかけていた記事を出せずにおりました…! せっかくカンファレンスに参加したのと、文章に書き起こしていたのでとても遅いですがひっそりとレポートを投稿させてください…。

Developers X Summit

Developers X Summitとは、Developers Summit(デブサミ)のスピンオフイベントです。 公式サイトより説明を引用させていただきます。

2003年の初開催から、国内最大級のITエンジニア向けカンファレンスとしてテクノロジーの最先端を届けてきた「Developers Summit」シリーズ。 その中の新たなスピンオフイベント「Developers X Summit(通称:デブクロ)」は、多彩な領域とITの織りなす交差点となるカンファレンスです。 今回の「Developers X Summit 2024」では、「ITエンジニア×大企業で社会を変革する」をテーマに、日本社会を長く支えてきた大企業でDX、内製化やアジャイル推進に取り組むエンジニアにスポットライトを当てます。 本イベントでは、大企業における内製化を推進したトップランナーたちによるセッションや、大企業DXのヒントとなるプラクティスやトレンドを知ることができるセッションを用意しています。各社の取り組みを知り、明日から使える知見やマインドセットを得ることで、日本社会の発展に欠かせない大企業において奮闘するエンジニアが、DXに向けた一歩を踏み出せる場を目指します。

https://event.shoeisha.jp/devsumi/20241114

今回は「ITエンジニア×大企業で社会を変革する」がテーマであるように、大企業における内製化に着目したセッションが多かったため、タイムテーブルをみて参加を決めました。

印象に残った講演

どの講演も非常に参考になるものでしたが、特に印象に残った講演をピックアップします。 (なお、すべての講演に参加できたわけではないのと、個人の志向が大いに含まれております)。

クレディセゾンでDXを進めてきた5年間を振り返る ~内製エンジニアチームに求められること

https://event.shoeisha.jp/devsumi/20241114/session/5309

感想

一見すると綺麗にみえますが、その裏にはとんでもない苦労があるのだろうと想像しながら拝聴していました。
特に印象に残ったのは2点あり、「計画しすぎなかったこと・痛みを感じたものに関して優先順位を決めてやったこと」と「今までのやり方を否定すると文化の違いを許容できなくなる」でした。

大企業になればなるほどウォーターフォールによるシステム開発に慣れてしまっているので計画しすぎない進め方を受け入れてもらえないと思われがちですが、実際にスマホアプリのキャンペーンからスモールスタートし、実績を積み重ねて目の前の課題に向き合って来たのだと思いとてもリアリティがある進め方だと感じました。アジャイルソフトウェア宣言においても、「包括的なドキュメントよりも動くソフトウェアを」とありますが、まさにそれを体現しているのだと感じました。経営陣を含めて手を動かし、痛みを実感する、計画しすぎないで実感をもとに優先順位を決めていくという言葉がとても刺さりました。
(また、月並みではありますがトップで主導している小野さんがとても技術や進め方に明るい方だというのも組織として頼りがいがあるポイントだと思いました。)

2点目に関して、外から入ってきた人は意識しないと現場のやり方を否定しがちかなと思います。現場で今まで行ってきたやり方は正解だと思いますし、その企業を支えてきた基盤や文化でもあります。なので、意見するからこそ、そこに対して多大なるリスペクトをもって接するべきだと考えています。それを忠実に守っているところが内製開発体制や組織変容を受け入れられる要因を作っていると思いましたし、大企業でDXを行っていくなら特に注意しなければならないポイントだと改めて思いました。

講演後にAsk the Questionというコーナーがあり、少し立ち話をさせていただいたのですが、
数字責任は一部部署で持つものではなく、プロジェクト・プロダクトに関わるチームで担う考え方だったり、進め方・考え方含めとても参考になりました。

今回講演されていた内容に近い話は小野さんのnoteSpeakerDeckでも公開されていますので、ぜひご覧ください。

大企業で働くエンジニアの生存戦略~技術選定スキルとビジネスに飛び込むキャリア~

https://event.shoeisha.jp/devsumi/20241114/session/5323

感想

ゼロトラストセキュリティと聞くと新しい考え方のように見えますが、クラウド→情報通信と広げていくと歴史的には境界型セキュリティよりも前に生まれていた考え方だと知り勉強になりました。
このように広げていくor具体事象から抽象的な思考で考えていくと本質的なものが見える、それが歴史から学ぶことによって得られるのだなと思いました。
また「上辺だけの知識や実践ではなく、解釈の深度を増し、次の解釈につなげる。」という言葉がとてもしっくりきておりまして、深く考えるためには物事のエッセンスを見極める必要があると思いましたし、 自分の頭でその都度噛み砕いて解釈をしておくことが次につながっていくのだと理解しました。(だからこそ、このセッションに参加して感じたことを残しておこうと決意して記事を書いています。)

つまり今後は自分の頭で考えて解釈し続けることが、ITの領域で生きていくための生存戦略になるということですね。
基本あっての応用、守破離…。

また、社内浸透においても「小さいチームから育てて事例を作って成果を出していく」ことが重要であるとおっしゃっており、大きく始めるのではなく小さく初めて成功体験を作っていくのが何事もベストなんだなと感じました。(アジャイルだからという話ではない)

エンタープライズアジャイルの課題と解決へのアプローチ 〜問題領域を俯瞰する視点と、自社に適した取り組み発見のヒント

https://event.shoeisha.jp/devsumi/20241114/session/5324

感想

この講演では、大企業でアジャイル開発を導入する際の課題とその解決策について述べられていました。ウォーターフォール型開発が根付いた組織でアジャイルを実践することを「エンタープライズアジャイル」と定義し、なぜ多くの場合に期待通りの効果が得られないのかを分析していました。

スクラムが効果を発揮しないのは、「チームの周辺環境がアジャイルを阻害するから」と指摘していました。

  1. 組織の意思決定サイクルの不一致:稟議や経営会議などの既存の意思決定プロセスがアジャイルのリズムと合わない
  2. 基幹システムとの連携の難しさ:価値あるデータは基幹システムにあるが、開発タイミングが合わない
  3. 既存の組織構造の影響:コンウェイの法則により、過去の組織構造がシステム設計に反映される
  4. 品質保証プロセスの不適合:既存のQA体制がアジャイルの速度に対応できない
  5. 中長期計画と予算管理の硬直性:固定された機能と予算の枠組みがアジャイルな変更を許さない

講演後の立ち話では、「電車に乗る前の前捌きが重要」という話が印象的でした。つまり、スプリント開始前の準備作業をいかに丁寧に行うかが成功の鍵であり、一度スプリントが始まったら「電車の運行ルール」をしっかり守ることが大切だという洞察は、実践的で価値あるものでした。

大企業でアジャイルを成功させるには、既存のプロセスとアジャイルの原則をどう調和させるかという視点が重要だと理解できました。

日本の組織を芯からアジャイルにする

https://event.shoeisha.jp/devsumi/20241114/session/5327

感想

この講演は、『カイゼン・ジャーニー』や『正しいものを正しく作る』、『組織を芯からアジャイルにする』の著者である市谷さんによるものでした。書籍は何度も読んでいましたが、生の講演を聴く初めての機会で非常に貴重な体験となりました。

講演の核心は「組織のアジャイル変革」についてでした。

  1. LTV(顧客生涯価値)指向への転換

    • 伝統的な組織にとって最大の転換点は、「商品を売る」という一時的な顧客課題解決から、「顧客と共に継続的に課題解決する」姿勢への移行
    • この継続的な価値提供のためにアジャイルが必要となる
  2. 階層型組織の限界

    • 従来の階層型組織でアジャイルを導入しようとしても成功しにくい
    • ネットワーク型組織に移行しても各チームが孤立してしまう傾向がある
    • 数個のアジャイルチームを立ち上げても、全体としての連携が難しく効果が限定的
  3. PdMO(プロダクトマネジメントオフィス)という解決策

    • 市谷さんが提案する解決策は「中間的生成的な場を作る」こと
    • PdMOは階層的ではないが現場を支援する組織として機能する
    • 特徴:「あるものから次のものを作る」という考え方で、既存(From)を置き去りにせず現場の力を引き出して後押しする
  4. PdMOの実践的なイメージ

    • 消防署のように、問題が発生した場所にテーマ的に支援を行う
    • 共同体として機能し、固定的な組織構造や役職にとらわれない
    • 大きな問題には適切な構造で対応し、小さく始めるのではなく「微分して始める」発想が重要

1回聞いただけでは自分でもうまく説明しきれない部分があるので、資料を拝見して咀嚼していこうと思います。 ただ、最後に市谷さんがおっしゃっていたように、アジャイル開発には変化のための営みがすべて詰まっており、四半世紀近くにわたって手元でトライしてきたと、だからこそ過去に学び現在に適用していく過程で組織を変えていくのは自分たちであるという言葉に打たれました。特に事業会社のDXに関わる社員の立場としてやっていけることは少なくないと思っているので、このあたりの内容をヒントにして組織に還元していけることはなにかを考え続けていこうと思います。

おわりに

全体を通して参加して良かったと思える素晴らしい講演ばかりでした。(全て紹介しきれず申し訳ありません。)

皆さん口を揃えておっしゃっていたのは「既存事業や資産を最大活用するなら既存組織にもリスペクトを」だったり、「fromを置き去りにしない」という既存チーム・事業・組織に対するリスペクト小さく事例を作って成果をあげる2点だと思います。課題に向き合って変えようとしたり、手法を導入するよりも先に既存事業や組織に対するリスペクトを持ち、そこで発生している課題に向き合い、小さなチームで成果だし続けることで信頼を獲得していくことがベストプラクティスであると思いました。変えるよりも先にリスペクトを、は本当に大事なことだなぁと思いました。最初に変えるのではなく、まず既存の運用や事業に向き合い、一緒に課題に向き合うことが組織の中に入って課題解決する人の役割だと改めて痛感しました。

その他、感想にも書かせていただいたように参加してとても良かったです。調べ物をしているとSpeakerDeckやShareSlideなどで発表資料を目にすることは多いのですが、カンファレンスでしか得ることができないエネルギーや発表の中でしか話されないことが多く、今後のカンファレンス参加のモチベーションにも繋がりました。やっぱり足を運ばないとですね!

以上でイベントレポートを締めくくらせていただきます。
会場でお話させていただいた皆様、貴重な機会をありがとうございました。